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岐阜家庭裁判所大垣支部 昭和63年(家)205号 審判 1988年10月06日

主文

申立人らの本件申立を却下する。

理由

第1申立の趣旨

「事件本人森田和典を申立人森田幸男および申立人森田規子の特別養子とする」との審判

第2判断

特別養子は、単に養子と養親との間の法律上の親子関係の成立に止まらず、人為的に当該養子と実の親のみならず血族との間の法律的な意味での親族関係を遮断するものであり、養子たるべき者にとって一生の運命を左右するに足る重大な効果を伴い、しかも本来絶ちがたい親子の情感にも反する結果を、当人の不知の間に生じさせようとするものであって、こういった重大な結果を養子たるべき者に強いるには、これに値する程度の特別の事情の存在がその前提であると言うべきところ、一件記録および横浜家庭裁判所および当裁判所調査官の調査結果によれば、事件本人森田和典の実母淳子は、複雑な結婚歴を持ち、二度の結婚に失敗した後2人の子を連れて北海道の旭川に移り住んでいるうちに事件本人和典の父である香川武と知り合い、肉体関係を持つようになったが、当時同人には妻子があって結婚はかなわず、右武の意志に反して昭和59年7月14日に和典を分娩したものの、実父は認知さえ実行しようとせず、母親のみで前婚の子2人と共に和典を育てて行くことには多くの困難が予想され、他人の忠告を入れて、和典を申立人森田夫妻の養子とすることを決意し昭和59年11月2日に和典を申立人森田両名に引き渡し、家裁の許可を経て昭和60年1月23日に申立人らと和典の普通養子縁組が成立し、以後今日まで申立人らの充分な愛情の下で和典は恵まれた環境の中で育まれていること、今回の申立人らの申立について、実の母である淳子は、既に再婚して木村の姓となっていて再婚の相手が和典の存在を知らないから同人との関係が公にならないことを熱望するとともに、本件の特別養子関係の成立について涙とともに同意していること、が認められ、実父母と申立人らと比較して、養育環境から見ると、申立人らの方がより好ましいことは肯定すべきであるが、そうといって右関係が特別養子関係を前提にしなければ、即ち実の母がその血縁の思いを断ち切る為の涙なくしては、有り得ないと言うことにならず、以上の事実が、前記の和典にとって、例え法的な関係とは言っても、実親子関係の断絶を宣言する以上心情的には同一と言うべきであるが、実の親との関係を消滅させるに値する程の重大な事情に該当するとは到底考え難いのである。

申立人らは、今回の親族法の改正を機会に本件申立に及び、事理弁別の能力のない幼児を自己の子とする場合にむしろ実親との関係を絶って養親との親子関係のみにしたいとの心理的要求が養親の側に存在することは一応理解し得るし、養子を相対的に実子に近い法的取り扱い(実親の直接の表示を避け、養子事項の記載に配慮する等)が予定されている特別養子とすることによる申立人らの責任感、愛情等の高揚、養子自体の心理的効果等の利益も考え得るが、こういった程度では前記のような重大な効果を伴う本件申立の理由としては説得力を欠き、現在既に普通養子関係があって養子である和典にとって不都合を生じているとは認められないのに、今あらためて普通養子としての関係を清算して特別養子関係とせねばならない格別の福祉上の必要はないと言うべきである。

よって、申立人の本件申立には充分な理由がないものとして、その申立を却下することとして、主文のとおり審判する。

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